驟り雨【藤沢周平】10編の短編が収められた10通りの人情溢れる短編集。読後10年経って気づけた作品

藤沢周平 時代小説
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読後、何年も経ってから、「そういうことか。この本が言っていたことは。」と気づくことはないだろうか。この本は、そんな長い時間かけて、気づかせてくれた問いかけの一冊だった。

藤沢周平との出会い

藤沢周平は中学生頃から読み始めました。読み出すとその時代にスッと入って行き、登場人物の着ている服や髪型、顔つき、家の建具の様子まで有りありと浮かんでくる。そんな中で、人々の心の動きや空気を匠に描写し、思わず登場人物に成り代わって考え、ドキドキしてしまう。
藤沢周平が長く国民に愛される人情作家というのも納得です。

藤沢周平の本はたくさん読みましたが、特に印象に残ったのがこの驟り雨

まず、漢字が読めませんでした。。。w
はしり雨ですね。
漢字を調べて、その意味を知ることからスタートする、という思い出深い本。

短編「人殺し」について思うこと

さて、この本には、10編の短編が収められています。

  • 贈り物
  • うしろ姿
  • ちきしょう!
  • 驟り雨
  • 人殺し
  • 朝焼け
  • 遅いしあわせ
  • 運の尽き
  • 捨てた女
  • 泣かない女

この中で、強烈に心に残ったのが「人殺し」です。
これは、読んだあとに、「なぜ?」とはてなマークが浮かびました。
そして、その「?」は、その後、何年も消えることがなかったのです。
そう、どうして、藤沢周平はこのような人物を描いたのか?
どうして、この人物が正当化されないのか?

なにか、モヤモヤしたものがずっと頭の片隅にあったのです。

それから数年経ち、人並みに、世の中の荒波に揉まれ
世界を旅し
色んな人に会い
様々な事件、アクシデントに触れ
親しい人の死を経験し

気づいたのです。

「あぁ、藤沢周平が言っているのは、こういうことか。」と。

詳しくは、ぜひ、本書を読んでいただきたいですが
この「人殺し」という短編は
そのタイトルから察せるとおり
主人公が「人殺し」をしてしまうのです。

藤沢周平は、主人公が「人殺し」に至るまでの描写、その後の描写をするのですが
それが、悪いのか、いいのか、ハッピーエンドなのか、何なのか、
はっきりしないまま終わるのです。(もちろん、含みはありますが)

私は、これが引っかかってしょうがなかった。
どっちなんだ、いいのか、悪いのか?!
いいのなら、なぜいいのか。
悪いのなら、なぜ悪いのか。
はっきり知りたい!と思っていました。

しかし、今思うのは、例えば人の命に関わるような質問があったとして。

「人はなぜ人を殺してはいけないのか。」

という問いに論理的な答えがあるのでしょうか。
倫理的な答えはあっても理屈で答えることができるのでしょうか。

昨今、SNS上では特に、論理、理屈、数字、などが「口論」のキーとなり
「マウントを取る」には、そんなテクニックが必要で
更には、正論を言う人には「セイロナー」というあだ名までつく、という
なにか、一歩引いてみれば、笑えるようなやり取りが多いと感じます。

論理で言えることは、大事ですが
論理で言えないことがあるのを知ることも、それ以上に大事な気がします。
お題によって違いますよね、理屈で説明できることと、できないことって。
それを全部理屈で通そうとするからおかしなことになる。

先日、知り合いのとあるお店にでかけました。
そのお店では、ずっとテレビが点きっぱなしです。
1日中ワイドショーなんかがお客のためにかかっています。

そこで、知り合いがふと「このひと、可哀相だよね。。」

と言ったのです。この人とは、元首相を暗殺した人です。

びっくりして、すぐに返事できませんでした。
「どうして?」ときくと
ワイドショーで言っていることそのままの返事が返ってきました。
「。。。そうだね。。。。」
と返事しましたが
日本はどうなっていくんだろう。。。と大げさに少し暗い気持ちになりました。

そこで、またこの本を思い出したのです。
やっていいことと、悪いこと。
それが、理屈で説明できないことってあるんだ。
それが、人間なんだ。

そんな言葉では言えないことを
いつも考えさせくれる
藤沢周平の作品を若い時にたくさん読むことができて私はラッキーだったと思います。
また、若すぎてきっと理解していないことがたくさんあるはずなので
また読み直してみたいとも思っています。

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